• 「企業会計審議会」と「企業会計基準委員会」について教えてください。[2009/10/23]
  • 「企業会計審議会」は政府(金融庁)の企業会計・監査基準の設定機関であり、「企業会計基準委員会」は、民間の財団法人(財務会計基準気候)による日本の会計基準の設定機関です。

     「企業会計審議会」は、昭和23年(1948年)6月に連合軍GHQの経済安定本部内に発足した「企業会計制度対策調査会」を前身としており、昭和25年(1950年)に「企業会計基準審議会」と改称されたのち、昭和27年(1952年)に経済安定本部の廃止とともに、大蔵省(現在、財務省)の諮問機関として移管され、名称も「企業会計審議会」と改められました。(なお、平成12年(2000年)の省庁改編により、現在、金融庁の所轄となっています。)

     「企業会計審議会」の任務は、行政府の諮問に応じて、企業会計に関する基準を設定し、その他企業会計制度の改善等の調査・審議を行うことです。

     たとえば、「企業会計審議会」は、昭和24年(1949年)7月9日に、企業会計の基準を確立・維持し、わが国経済の民主的で健全な発達のための科学的基礎を与えるために「企業会計原則」を公表しています。「企業会計原則」は企業会計をめぐる社会的・経済的・法制的な変化に対応するために4度(昭和29年、昭和38年、昭和49年、昭和57年)の修正が加えられ、商法・法人税法等の諸法令との調整に関する意見書なども「企業会計審議会」から公表されています。「企業会計審議会」による会計基準の設定は、平成15年(2003年)の「企業結合に係る会計基準」が最後であり、その後は、後述する「企業会計基準委員会」にその役割を譲っています。ただし、「監査基準」・「四半期レビュー基準」・「監査に関する品質管理基準」・財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」といった企業会計・財務報告に対する監査保証制度に関わる諸基準の設定は、今なお「企業会計審議会」が行っています。また、平成21年(2009年)2月4日には「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」を公表するなど、わが国の企業会計制度の行く末を決めうる重要な機関です。

     「企業会計基準委員会」は、平成13年(2001年)7月26日に発足した財団法人財務会計基準機構において、会計基準の開発・審議等を行う常設の民間機関として創設されました。そして、「企業会計審議会」に代わり会計基準を設定する役割を担うこととなり、平成23年(2011年)2月現在、25の「企業会計基準」を作成・公表しています。「企業会計基準委員会」は、「企業会計基準」のほかに、当該基準の具体的な指針として「企業会計基準適用指針」を、また他の会計問題の具体的な対応措置として「実務対応報告」を作成しています。これらはいずれも金融商品取引法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」として取り扱われています。

     これらの「企業会計基準」等は、「企業会計審議会」が作成した書基準を修正したものも含まれているほか、近年における商法改正・会社法の創設、金融商品取引法の改正や会計基準の国際的調和化・収斂への対応をめざしたものとなっています。

     ・企業会計審議会 http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/top.html

     ・企業会計基準委員会 http://www.asb.or.jp

     「企業会計基準」 http://www.asb.or.jp/html/documents/accounting_standards/

  • 最近、新聞などで国際会計基準の記事を目にしますが、この基準の特徴を教えてください。[2009/8/21]
  • 国際会計基準(正しくは国際財務報告基準:IFRS)は、欧州連合(EU)の経済的統合を契機としてヨーロッパを中心に発展してきた会計基準で、ロンドンに本部をおく「国際会計基準審議会(IASB)」が設定しています。IFRSは、2000年に「証券監督者国際機構(IOSCO)」が支持を表明したことにより、国際的な資本市場における統一的な会計基準としての役割を担うことが期待されるようになっています。また、現在は、IASBとアメリカ財務会計基準(SFAS)の設定団体である「アメリカ財務会計基準審議会(FASB)」を中心として、会計基準の国際的コンバージェンスが進められています。既にEUが域内の上場企業にIFRSの採用を義務付けたほか、カナダや中国など100ヶ国以上が採用しています。

     日本でも、日本の会計基準設定団体である「企業会計基準委員会(ASBJ)」とIASBとの間で、日本基準と国際会計基準の主要な相違についてコンバージェンスを達成することが2007年8月に「東京合意」として発表されています。より具体的には、2010年度よりIFRSの選択適用が認められ、最近では2015~6年に上場企業の連結決算についてIFRSの採用を義務化することを前提とした議論が進められています。

     IFRSの最大の特徴は、これまでの日本基準と比べると、会計に対するアプローチとして、「収益費用アプローチ」ではなく「資産負債アプローチ」を採用し、資産・負債を中心に会計を捉えている点です。この「資産負債アプローチ」は、資産・負債の評価に時価(公正価値)を採り入れる考え方につながりやすいと考えられており、実際にIFRSにおいては、種々の会計基準において、時価情報の導入が行われています。そのため、IFRSは「時価会計」であると説明されることもしばしばあります。

     日本への具体的な影響として特に議論されている点としては、有価証券の保有区分が売却可能かそうでないかの二つに限定されること、企業の買収などによって生じるのれんの会計処理について償却処理が認められず、毎期末に減損の有無を確認し、減損が認識されれば「減損会計」の対象となることなどがあげられます。また、貸借対照表、損益計算書をはじめとした財務諸表が、「財政状態計算書」、「包括利益計算書」と変更される可能性があり、さらに、これまで日本においては重視されてきた「経常利益」に該当する利益が算出されず、「当期純利益」には重要性を置かずに、純資産の期中増加額を意味する「包括利益」が重要視されるなど、企業の業績評価において大きな役割を担っていたPER等の位置づけにも大きく影響をおよぼすと考えられます。

     <参考資料>

     企業会計審議会「我が国における国際会計基準の取り扱いに関する意見書(中間報告)」2009年6月。
     http://www.fsa.go.jp/news/20/20090630-4/01.pdf

     国際会計基準審議会『国際財務報告基準』2009年。

     佐々木隆志「国際財務報告基準の受け入れと課題」じっきょう商業教育資料No.81(2009年2月)

     http://www.jikkyo.co.jp/downloadcontents/1261783249.pdf

     佐藤信彦編著『国際会計基準精度化論』白桃書房、2008年。


  • 平成22年(2010年)4月に後入先出法が廃止になりましたが、どうしてですか?[2009/5/27]
  • 企業会計基準委員会によって平成20年9月26に公表された企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」が、平成22年4月1日以後開始する事業年度から適用されるためです。この「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、会計基準の国際的なコンバージェンスを図る観点から、「後入先出法」を認められる棚卸資産の評価方法から除外することになりました。

     では、「国際的なコンバージェンス」とはどういうことでしょうか。

     現在、国際的な会計基準としては、国際会計基準審議会(international Accounting Standards Board; IASB)が設定・公表する「国際会計基準・国際財務報告基準(International Accounting Standards, International Financial Reporting Standards)」と米国財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board;FASB)」が設定・公表する「財務会計基準(Financial Accounting Standards)」を挙げることができます。日本の会計基準を、これら2つの基準との差異がゼロになるように、会計処理・表示方法の段階から“同質化”しようとするのが、コンバージェンス(convergence)にほかなりません(さらに、国際会計基準と米国会計基準の間でも、諸基準間での差異をゼロにしようとする“収斂”が進んでいます。)。

     棚卸資産に関しては、国際会計基準第2号「棚卸資産」が、2003年の改正にあたって、それまで選択可能な処理方法として認められていた「後入先出法」の採用を認めないことになりました。このIASBの決定を重視して、日本の基準設定団体である企業会計基準委員会においても、

     

     (1)後入先出法では、棚卸資産が過去に購入したときからの価格変動を反映しない金額で貸借対照表に繰り越され続けるため、その貸借対照表価額が最近の再調達原価の水準と大幅に乖離してしまう可能性があること、

     (2)棚卸資産の期末の数量が期首の数量を下回る場合には、機関損益計算から排除されてきた保有損益が当期の損益に計上され、その結果、期間損益が変動すること、

     (3)一般的に、棚卸資産の実際の流れを忠実に表現しているとはいえないこと

     

    等の理由から、認められる棚卸資産の評価方法から「後入先出法」を除外することになりました。


    ※「棚卸資産の評価に関する会計基準」

     http://www.asb.or.jp/html/documents/docs/tanaoroshi/tanaoroshi.pdf

    ※「商工会議所簿記検定試験出題区分表等の改定にあたって」(平成21年1月7日)

     http://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/kubun.html


  • 新しい減価償却制度の概略について教えてください。[2009/2/24]
  •  有形固定資産の減価償却費算定について、そこで用いられる「残存価額」はこれまで一律に10%とするのが一般的でした。しかし、平成19年度の税制改革(法人税法改正)により、昭和39年以来の大改正が行われ、平成19年4月1日以降に取得する有形固定資産について、「残存価額」および「償却可能限度額(取得原価の95%相当額)」が廃止されました。この結果、減価償却費は「残存価額」をゼロとして計算し、1円(備忘価額)まで償却できるようになりました。
     なお、平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産は、従来の償却方法の仕組みが維持され、償却可能限度額まで償却した後に、5年間で1円(備忘価額)まで均等償却を行うことができます。
     これらはあくまで税法上の話であり、企業会計上は従来どおり、残存価額を10%として計算することができます。以下では、改正後の法人税法における減価償却費の計算方法について説明します。
     まず、税法では、減価償却費の計算において、定額法であっても「1÷耐用年数」により「償却率」を算定し、これを要償却額に掛けて減価償却費を計算します。そして、新しい定額法は、残存価額を0円として計算するため、「要償却額=取得原価」となります。それゆえ、企業会計で行うように計算方法を示すならば、
     「減価償却費=取得原価/耐用年数」 ※税法では、減価償却費=取得原価×(1/耐用年数)
    となります。ただし、耐用年数の最終年度には、簿価が1円となるように調整を行います。つまり、他の期間よりも減価償却費が1円少なくなります。
    また、新しい定率法は、期首の簿価に定額法の償却率を2.5倍した「償却率」を掛けて計算します。このため、「250%定率法」と呼ばれます。計算方法は、償却率こそ違うものの、
     「減価償却費=未償却残高×償却率」
    で、変わりません。ただし、新しい定率法によって計算した減価償却費(「調整前償却額」)が、一定の「償却保証額」を下回った期間から、その期首簿価を残存耐用年数で均等償却するように、減価償却費を計算します。実務上、均等償却となるような償却率(「改訂償却率」)を掛けて計算します。なお、「償却保証額」は、当該資産の取得原価に「保証率」を掛けて計算します。
     たとえば、取得原価800,000円、耐用年数8年とした場合の各方法による減価償却費を計算してみると、次の表のようになります。なお、従来の定額法・定率法(償却率0.250)は残存価額を取得原価の10%である80,000円としています。また、新しい定額法の償却率は「0.125」とし、新しい定率法の償却率は「0.313」、保証率は「0.05111」、改訂償却率は「0.334」とします。

    上記の例では、新しい定率法は、6年目に、定率法による償却額が償却保証額40,888(=800,000×0.05111)を下回るので、その期以降は均等償却に切り替わります。実務上、償却率等は、「減価償却資産の耐用年数に関する省令 別表第九・第十」によって規定されています。
     新しい減価償却制度の詳細については、国税庁のWebページから以下の資料をダウンロードすることができます。


    ・「平成19年度 法人の減価償却制度の改正のあらまし」
    http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/h19/genka.pdf
    ・「法人の減価償却制度の改正に関するQ&A (平成19年4月)」
    http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/h19/genkaqa.pdf