工業

織りなすこころ

岡山県立倉敷工業高等学校
ファッション技術科吉田麻奈

・1.はじめに


ファッション技術科としてスタートして3年目。新しい実習項目では、「ホームスパンによる織物製作」というテーマを設定し、原毛から最終製品までを目指して作品を製作している。
この実習では、地域の介護老人保健施設で飼われている羊から刈り取った毛を原毛として使用し、マフラーやショールに仕上げ、できあがった作品は、施設の方々に使っていただいている。

・ 2.研究の内容

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(1)原毛の刈取り
羊は通常年に1 回、夏を前に毛を刈り取る。毛を刈り取る作業はとても大変で、施設の方に手伝っていただいて、ようやく生徒が少し体験できる程度である。


(2)洗毛
洗浄は、まず原毛をぬるま湯で2 ~ 3 回押し洗いを行う。
その後、原毛に対して4%の中性洗剤を入れ、湯で押し洗いを行い、数回湯を入れ替えてゆすぐ。
はじめは茶色だった原毛が、ほぼ白い状態になる。


(3)先媒染
洗った羊毛を先媒染する。媒染とは、この後行う染色で、色を吸着・固着しやすくするために、あらかじめ薬品で処理することである。
羊毛に対して5 %の酒石酸と15 %の硫酸アルミニウムカリウムをはかり取り、液量が50 倍になるよう湯に溶かす。
溶液に羊毛をひたし、 100 ℃で20 分間煮沸させた後、自然に冷ます。


(4)染色
桜で染める
桜は、羊毛に対して100 ~ 500 %が必要となる。羊毛がつかるくらいの水に、桜の葉や幹を入れ、 100 ℃
で20 分間煮沸させる。ザルと不織布でこし、 1 度目の半分の水で同じように煮出して染液にする。葉は2 回、幹は5回程度の煮出しが可能である。
30 倍溶液の染液に羊毛を入れ、 100 ℃で20 分間染色した後、自然に冷ます。
栗のいがや刈安などでも、同様に染色できる。


コチニールで染める
羊毛に対して4 ~ 9%のコチニールをはかり、 1L ずつ7回煮出す(合計7 L になる)。
炭酸カリウム0.5%(抽出剤になる)を、途中で2 回くらい加える。15L になるまで湯を加え、染液にする。100 ℃で
20 分間染色した後、自然に冷ます。
炭酸カリウムを入れるとピンク系になり、入れないと朱系の染液になる。


藍で染める
羊毛15g に対してインジゴピュア5g 、水酸化ナトリウム5g 、ロート油5mL を500mL の湯に入れ、火にかける。
70 ℃になったら、ハイドロサルファイトナトリウム10g を加え、よくかき混ぜる。その後、 3L の水を加えて染液とする。
染色したい濃さになるように湯を加えて、色を調節する。
60 ℃以下で湯煎して色を見ながら染色し、充分に酸化させる。染色後、 1 ~ 2%の酢酸を湯に溶かし、数分つけた後、軽く湯洗いする。
刈安で染色した後に藍染めすると黄緑色になり、ヤマモモで染色した後に藍染めすると緑色になる。
藍染めをした残液を、そのまま下水に流すと環境に影響を及ぼすので、藍の回収も視野に入れ、廃液処理を考えた。
藍の残液はコロイド溶液であり、藍粒子の表面はプラスに帯電している。そこで今回は、アニオン性高分子凝集剤を使うことにした。廃液10L あたり、アニオン性高分子凝集剤を0.05 g加えると、見事に粒子が沈殿し、藍粒子は不織布で回収・再利用することができた。
ろ過液はほぼ透明で、 pH が5.8 ~ 8.6 になるよう調整し、下水に排水した(水質汚濁防止法による)。


インスタントコーヒーで染める
羊毛に対して100 ~ 200%のインスタントコーヒーを30倍溶液の湯に溶かし、 100 ℃で20 分間染色した後、自然に冷ます。


茜で染める(粉末)
羊毛に対して30%の茜をはかり取り、つかる程度の湯で20 分間煮出す。不織布で茜をこし、湯を加えて30 倍の溶液にし、染液とする。
羊毛を入れ、 100 ℃で20 分間染色した後、自然に冷ます。


エンジュで染める(乾燥したもの)
羊毛に対して50%のエンジュをはかり取り、つかる程度の湯で20 分間煮出す。不織布でエンジュをこし、湯を加えて30 倍の溶液にし、染液とする。羊毛を入れ、 100 ℃で20 分間染色した後、自然に冷ます。


黒に染める
①先媒染
羊毛に対して3%の重クロム酸カリウムと1%の酢酸銅、3%の酒石酸を少量の湯で溶かし、 30 倍溶液になるように湯を加え、羊毛を入れる。
100 ℃で20 分間熱を加えた後、自然に冷ます。この媒染液はそのまま流すと環境に影響を及ぼすので、廃液1L
あたり60g のハイドロサルファイトナトリウムと20g の水酸化ナトリウムを入れ、沈殿ろ過させる。

②染色
羊毛に対して50%のログウッドチップと25%のヤマモモチップを、羊毛がつかる程度の湯で3 回程度煮出し、合計で30 倍溶液の染液を作る。
羊毛を入れ、 100 ℃で20 分間染色した後、自然に冷ます。


(5)カーディング
カーディングとは毛の流れを並行にし、紡績しやすくすることである。ハンドカードというやり方もあるが、大変時間がかかるので、業者に依頼している。


(6)紡績
カーディングした羊毛を手で紡ぐ。初めての生徒でも2時間も練習すれば、糸が紡げるようになる。紡いだ糸は、よりを安定させるために5 分程度蒸す。


(7)整経
整経とは経糸をそろえることである。
柄を考えながら整経をしていく。仕上げをすると約15%程度縮むので、それを考えて整経する。


(8)綜縞通し、おさ通し
経糸を綜縞とおさに1 本ずつ通していく。ここが一番根気のいる作業である。


(9)製織
柄を考えながら、好きな色の緯糸を入れていく。織り上げるのは一番楽しい作業で、集中すれば数時間で完成する生徒もいる。
経糸が切れればその都度糸をつなぎ、織り上げていく。


(10)仕上げ
房を作り、切れてつないだ糸の後始末をする。
仕上げに40 ℃の湯に30 分間つけておき、中性洗剤でよく押し洗いをする。ゆすいだ後、 6 秒間脱水機にかけ、アイロンをあてれば完成である。


・ 3.おわりに


織り上がった作品は、原毛をいただいた介護老人保健施設に差し上げた。また、同時に工業技術基礎の実習で製作した卓上織機も贈呈しており、入所者の方々に使っていただければありがたい。
施設の方々には大変喜んでいただき、生徒自身にとっても貴重な体験であった。施設のおばあさんに手を握られながら、「ありがとう。本当に、使うのが惜しいわ。」といわれた生徒は、感激で目に涙を浮かばせていた。
生徒にとって、施設の方々とのふれあいは、人間性の育成に大きな影響を与えると感じた。今後も施設に伺う回数を増やしながら、環境と福祉に配慮したものづくりを推し進めていきたい。